公正な採用選考の基本は、厚生労働省によれば「応募者に広く門戸を開くこと」と「本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とすること」の2点です。本籍や家族のこと、宗教や支持政党など、仕事をする能力と関係のない事項は、採用基準にしないつもりでも、応募書類に書かせたり面接で尋ねたりした時点で採否に影響し、就職差別につながるおそれがあるとされています。
厚生労働省は、こうした事項を「就職差別につながるおそれがある14事項」として示しています。また、職業安定法第5条の5と指針(平成11年労働省告示第141号)により、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などは、原則として収集が認められません。
この記事では、14事項の中身、応募書類と面接で気をつける点、残業や転勤など確かめたい条件の聞き方を、厚生労働省の公正採用選考特設サイトと関係法令にもとづいて整理します。
公正な採用選考の2つの基本
厚生労働省は、採用選考の基本的な考え方として次の2点を挙げています。
- 応募者の基本的人権を尊重すること(「人を人として見る」人間尊重の精神)
- 応募者の適性・能力に基づいた基準により行うこと
その背景として、日本国憲法第22条の「職業選択の自由」と第14条の「法の下の平等」があります。企業には採用方針や採否を決める「採用の自由」がありますが、厚生労働省は、それは応募者の基本的人権を侵してまで認められるものではないと説明しています。
そのうえで、公正な採用選考を行う基本として次の2点を示しています。
- 応募者に広く門戸を開く:求人条件に合う人が誰でも応募できるようにする
- 本人のもつ適性・能力に基づいた採用基準とする:求人職種の職務遂行に必要な適性・能力を持っているかどうかで判断する
就職差別につながるおそれがある14事項
厚生労働省は、次の(a)(b)の事項をエントリーシート・応募用紙に記載させる、面接で尋ねる、作文の題材にするなどして把握することや、(c)を実施することは、就職差別につながるおそれがあるとしています。これらに限られるわけではない点にも注意が必要です。
| 区分 | 事項 |
|---|---|
| (a)本人に責任のない事項の把握 | 1. 本籍・出生地に関すること |
| 2. 家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・地位・学歴・収入・資産など) | |
| 3. 住宅状況に関すること(間取り・部屋数・住宅の種類・近隣の施設など) | |
| 4. 生活環境・家庭環境などに関すること | |
| (b)本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)の把握 | 5. 宗教に関すること |
| 6. 支持政党に関すること | |
| 7. 人生観・生活信条などに関すること | |
| 8. 尊敬する人物に関すること | |
| 9. 思想に関すること | |
| 10. 労働組合(加入状況や活動歴など)、学生運動などの社会運動に関すること | |
| 11. 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること | |
| (c)採用選考の方法 | 12. 身元調査などの実施 |
| 13. 本人の適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用 | |
| 14. 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施 |
厚生労働省は、次のような具体的な注意も示しています。
- 「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることは、本籍・出生地の把握に当たる
- 「現住所の略図」などは、住宅状況や生活環境を把握したり、身元調査につながったりする可能性がある
- 採用選考の段階で、合理的・客観的に必要性が認められない「健康診断書」を提出させることは、14事項の(c)に当たる
なぜ「聞くだけ」でもいけないのか
面接の雑談のつもりで「ご両親は何をされているのですか」と聞くことがあります。厚生労働省は、採用基準にしないつもりでも、尋ねればその内容は結果として採否決定に影響すると説明しています。応募者の側は、尋ねられた事項が選考の基準だと受け取りますし、答えたくない事項を尋ねられることで精神的な圧迫を受け、面接で実力を発揮できない場合もあります。
厚生労働省の特設サイトによれば、令和6年度にハローワークで把握した、応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があった854件のうち、「家族に関すること」の質問が多くを占めています。面接の空気を和らげるために聞いてしまうケースが多いとされ、注意が呼びかけられています。
法令が禁じる個人情報の収集
14事項は厚生労働省の指導の基準ですが、個人情報の収集については法令上の定めもあります。
職業安定法第5条の5は、求人者や労働者の募集を行う者に、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして求職者の個人情報を収集することを求めています。指針(平成11年労働省告示第141号)第五は、次の個人情報を収集してはならないとしています。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想および信条
- 労働組合への加入状況
ただし、特別な職業上の必要性があるなど、業務の目的の達成に必要不可欠で、収集目的を示して本人から収集する場合は例外とされています。また指針は、個人情報は本人から直接収集するなど適法かつ公正な手段によること、収集目的の範囲内で保管・使用することも定めています。
このほか、募集・採用では次の法律も関わります。
| 法律 | 定め |
|---|---|
| 男女雇用機会均等法第5条 | 募集・採用について、性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない |
| 労働施策総合推進法第9条 | 募集・採用について、省令で定める例外を除き、年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない |
| 部落差別の解消の推進に関する法律 | 平成28年12月に公布・施行。厚生労働省は、本籍や出生地を採否に影響させないよう呼びかけている |
応募書類は推奨される様式を使う
厚生労働省は、応募者の区分ごとに、就職差別につながるおそれのある事項を含まない応募用紙を定めたり推奨したりしています。
| 応募者 | 使う書類 |
|---|---|
| 新規中学校卒業予定者 | 全国的に定められた「職業相談票(乙)」 |
| 新規高等学校卒業予定者 | 厚生労働省・文部科学省・全国高等学校長協会が定めた「全国高等学校統一用紙」 |
| 新規大学等卒業予定者 | 「新規大学等卒業予定者用標準的事項の参考例」にもとづく応募用紙、または「厚生労働省履歴書様式例」 |
| 一般の応募者 | 「厚生労働省履歴書様式例」 |
厚生労働省履歴書様式例のポイント
日本規格協会が令和2年7月にJIS規格の解説から履歴書の様式例を削除したことを受け、厚生労働省は独自の履歴書様式例を作成しています。従来の様式例との違いは次の2点です。
- 性別欄は任意記載:「男・女」の選択式ではなく、記載しないことも選べる
- 「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の4つの欄を設けていない:応募者の家族の状況などを把握する要素が高い情報であるため
性別の確認が必要な場合(法令上、特定の性別の就業が制限される業務がある、女性の少ない職場で女性を積極的に採用する取組を行っているなど)は、理由を説明し、本人が十分納得したうえで確認すること、回答を強要しないことが求められています。性別欄の記載内容や未記載であることで採否を決めないようにとされています。
エントリーシート(インターネットでの応募の入力画面)にも、就職差別につながるおそれのある入力項目を設けないようにします。自社で作った応募フォームに「家族構成」「本籍」「持ち家・借家」といった欄が残っていないか、一度点検しておくと安心です。
面接で気をつけること
厚生労働省は、面接について次の点を示しています。
- 質問事項はあらかじめ決めておき、その内容は職務遂行のために必要な適性・能力を評価するための事項とする
- 家族のことを尋ねる事案が大変多いので、公正採用選考の考え方を十分に理解しておく
- 複数の面接担当者で面接する場合は、全員が公正採用選考の考え方にもとづいて対応できるよう、改めて確認し意思統一を図る
- 評価は、あらかじめ評価基準を決めて、できるだけ客観的かつ公正に行う
作文を課す場合は「私の家族」「私の生いたち」など家庭環境に関わるテーマや、思想・信条を推測させるテーマにしないこと、適性検査は結果をうのみにせず、その結果だけで採否を決めないことも示されています。
残業・転勤などへの対応を確かめたいとき
仕事の都合で残業や転勤に対応できるかを確かめたい場面はあります。このとき家族の状況を聞くのではなく、勤務の条件を示して、その条件に対応できるかを尋ねるのが基本です。厚生労働省の履歴書様式例の解説は、面接で確認する際の質問例として次のような聞き方を挙げています。
| 確かめたいこと | 聞き方の例(厚生労働省の質問例の趣旨) |
|---|---|
| 残業・休日出勤 | 時期によって早朝出勤や残業、休日出勤をお願いする場合がありますが、対応は可能ですか |
| 緊急対応 | 当番制で呼び出しへの対応をお願いしていますが、対応は可能ですか |
| 配置先 | 配置先は複数の営業所が候補ですが、どこでも勤務は可能ですか。配慮が必要な場合は理由とあわせて教えてください |
| 転勤 | 転勤をお願いする場合がありますが、対応は可能ですか |
| その他 | 勤務するうえで配慮が必要なことがあれば教えてください |
同じ解説は、こうした質問を行う場合は面接者全員に同じように行うこと、また求人票や募集要項に関係する情報を記載しておくことを求めています。募集時の明示に「就業場所の変更の範囲」を書く義務があることは、募集時の労働条件の明示で整理しています。
避けたい質問と、置き換え方
| 避けたい質問 | 問題になる事項 | 置き換え方 |
|---|---|---|
| ご両親のお仕事は何ですか | 家族に関すること | 聞かない。志望動機や職務経験を聞く |
| 出身はどちらですか | 本籍・出生地 | 聞かない。勤務地の条件は求人票で示し、通勤や転居の可否を確かめる |
| 尊敬する人は誰ですか | 尊敬する人物 | 仕事で大切にしていること、判断に迷った経験を聞く |
| 愛読書は何ですか | 愛読書など | 業務に関係する知識をどう学んできたかを聞く |
| 支持している政党はありますか | 支持政党 | 聞かない |
| ご結婚の予定は | 家族・生活環境 | 聞かない。勤務条件への対応可否として尋ねる |
| 持ち家ですか | 住宅状況 | 聞かない |
2026年10月から面接の場のセクハラ防止措置も義務に
令和7年の男女雇用機会均等法の改正により、令和8年(2026年)10月1日から、求職者等に対するセクシュアルハラスメントを防止する措置が事業主の義務になります。厚生労働省によれば、「求職者等」には採用面接の参加者のほか、就職説明会やインターンシップの参加者、OB・OG訪問で社員を訪ねる人も含まれ、SNSなどオンラインでのやり取りや、飲食店など通常の職場以外で行われるものも対象になります。
事業主に求められる主な内容は、方針の明確化と周知(面談の時間・場所、実施体制、やり取りに使うSNSの種類などのルールを決め、求職者等にも周知する)、相談窓口の設置と周知、相談への迅速で適切な対応、プライバシー保護などです。面接の運営ルールを見直すときは、公正採用選考の点検とあわせて整えておくと効率的です。
社内の体制づくり
厚生労働省は、担当者のうち一人でも不適切な対応をすれば企業全体の社会的な信頼を失いかねないとして、次のような社内体制(公正採用選考システム)を整えるよう呼びかけています。
- 責任の所在を明確にする
- マニュアルやガイドラインで全担当者に周知徹底する
- 採用選考の方法や基準を点検・修正する仕組みを持つ
また、一定規模以上の事業所には、人事担当責任者などの中から「公正採用選考人権啓発推進員」を選任するよう求めています。推進員は、社内の採用選考が公正に行われるための旗振り役であり、ハローワークや労働局との連携窓口の役割も担います。選任や選任替えをしたときはハローワークに知らせます。
点検のチェックリスト
- 履歴書は厚生労働省履歴書様式例など、推奨された様式を使っている
- 自社のエントリーフォームに、家族構成・本籍・住宅状況などの欄がない
- 戸籍謄本、本籍入りの住民票、現住所の略図を提出させていない
- 採用選考時の健康診断書は、合理的・客観的な必要性がある場合に限っている
- 面接の質問事項と評価基準を事前に決め、面接官全員で共有している
- 残業・転勤などは、条件を示して対応できるかを尋ねる形にしている
- 作文のテーマに家庭環境や思想・信条に関わるものを使っていない
- 2026年10月からの求職者等へのセクハラ防止措置(方針・窓口・面談のルール)を準備している
まとめ
- 公正な採用選考の基本は、広く門戸を開き、適性・能力で判断すること
- 本籍・家族・住宅・思想信条などの14事項は、尋ねるだけで就職差別につながるおそれがある
- 社会的差別の原因となる事項、思想信条、労働組合への加入状況は、原則として収集が認められない(職業安定法第5条の5・指針第五)
- 応募書類は厚生労働省履歴書様式例などを使い、面接は質問と評価基準を事前に決める
- 条件への対応を確かめたいときは、家族の事情ではなく、勤務条件への対応可否を全員に同じように尋ねる
判断に迷う質問や書類は、管轄のハローワークに相談できます。
参考資料
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「公正な採用選考の基本」
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考時に配慮すべき事項」
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「採用選考の具体的な方法」
- 厚生労働省 公正採用選考特設サイト「公正採用選考人権啓発推進員制度」
- 厚生労働省「新しい履歴書の様式例の作成について」
- 職業安定法(e-Gov法令検索)
- 指針(平成11年労働省告示第141号)(厚生労働省 法令等データベース)
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省 Webマガジン「求職活動等をする方を守るために ― 求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の新ルール」(2026年9月1日)