内定辞退を減らすために中小企業ができることは、大きく3つです。応募から内定までを短くすること、内定と同時に労働条件を書面ではっきり示すこと、そして内定から入社日までの連絡の予定を先に決めて守ることです。内定の後に条件があいまいなまま連絡が途絶えると、応募者は他社の選考を続け、条件が具体的な会社を選びます。

また、内定には法的な意味があります。多くの場合、内定の時点で労働契約が成立していると考えられており、会社からの取消には厳しい制限があり、労働条件の明示も内定の時点で必要になります。

この記事では、次の順で整理します。

  • 内定の法的な性質
  • 辞退を減らすための3つの基本
  • 内定のときに渡すもの
  • 内定から入社までの連絡の予定
  • 辞退されたとき・取り消すときのルール
  • チェックリスト

内定の法的な性質

厚生労働省の「スタートアップ労働条件」のQ&Aは、採用内定と内々定を次のように説明しています。

段階考え方
採用内定一定の始期(入社日)と、内定通知書や誓約書に書かれた取消事由が生じた場合には解約できるという解約権の留保を付けて、労働契約を結んだ状態を指すことが多い
採用内々定採用内定にまでは至らないが、お互いがその状態を尊重し、内定に至るよう信義則上努力すべき状態

内定通知のほかに労働契約を結ぶための特段の意思表示が予定されていない場合には、内定によって労働契約が成立したと認められることが多いとされています。厚生労働省のリーフレット「採用内定時に労働契約が成立する場合の労働条件明示について」は、最高裁の判決(昭和54年7月20日、昭和55年5月30日)を挙げ、内定によって労働契約が成立していると解された判例があると説明しています。

同じリーフレットは、内定通知を受けた人が他社への応募を辞退し、会社の求めに応じて入社誓約書を出し、近況報告も行っていて、会社側に内定通知のほかに契約のための意思表示が予定されていなかった事例では、労働契約の成立が認められたと紹介しています。一方、会社が入社に向けた手続きをせず、本人も誓約をしていなかった事例では、成立していないと判断されています。

辞退を減らすための3つの基本

基本すること理由
1 早く決める面接から合否の連絡までの日数を決め、社内の決裁を前もって段取りする応募者は複数の会社を並行して受けていることが多い
2 条件を書面で示す内定と同時に労働条件を書面で渡す条件がわからないと、比べる材料がなく判断を先送りされる
3 連絡の予定を決める入社日までに、いつ・誰が・何を連絡するかを決めて伝える連絡がない期間が長いと、不安から他社を選ばれやすい

1 早く決める

面接の評価基準を前もって決めておくと、面接の後すぐに評価がつけられ、合否の判断も早くなります。面接の設計は面接の質問の作り方で整理しています。

ハローワークは、採否を決めたら結果にかかわらず速やかに応募者とハローワークへ連絡するよう求めています(ハローワークインターネットサービス「求人申込み手続きの流れ」)。合否の連絡の期限を面接の場で伝え、その期限を守ることも、応募者の信頼につながります。

2 条件を書面で示す

労働基準法第15条と同法施行規則第5条により、使用者は労働契約を結ぶときに労働条件を明示しなければなりません。厚生労働省のリーフレットは、採用内定時に労働契約が成立する場合について、次のように整理しています。

しなければならないこと

  • 採用内定によって労働契約が成立する場合は、内定に際して労働条件を明示する
  • 内定の時点で具体的な就業場所や業務を特定できない場合は、就労開始時の就業場所や業務として想定される内容を包括的に示してもよい

することが望ましいこと

  • 内定の時点で特定できなかった事項は、就労開始前のできるだけ早い時期に決め、決まり次第改めて明示する
  • 具体的な就業場所などを改めて明示する時期も、内定の際に明示する
  • 書面での明示が義務づけられている労働条件については、これらの明示も書面で行う

募集のときに示した条件から内定の時点で変える点がある場合は、職業安定法第5条の3第3項による変更の明示が必要です。明示のルールは募集時の労働条件の明示で整理しています。

3 連絡の予定を決める

内定を伝えるときに、入社日までの予定を表にして渡すと、応募者は先の見通しを持てます。

内定のときに渡すもの

渡すもの内容
内定通知内定の旨、入社予定日、内定の取消事由がある場合はその内容
労働条件通知書労働基準法施行規則第5条で書面での明示が必要な事項(契約期間、就業場所・業務と変更の範囲、労働時間・休日、賃金、退職に関する事項など)
入社までの予定表書類の提出期限、手続き、連絡の時期、入社日の集合場所と時間
提出してもらう書類の一覧入社手続きに必要なもの。業務に関係のない書類(戸籍謄本など)は求めない
問い合わせ先担当者の名前と連絡先。複数の窓口を作らない

提出書類について、厚生労働省の公正採用選考の考え方では、本人の適性・能力と関係のない事項を把握することは就職差別につながるおそれがあるとされています。入社手続きで必要な書類も、目的に必要な範囲にとどめます。考え方は公正な採用選考とはで整理しています。

内定から入社までの連絡の予定

内定から入社までの期間が長いほど、連絡の予定を細かく決めておきます。

時期連絡すること
内定を伝えるとき内定通知、労働条件通知書、予定表、問い合わせ先を渡す。返事の期限を伝える
承諾の返事をもらったとき受け取った旨と、次の連絡の時期を伝える
入社前の中間配属予定の部署、仕事の準備、決まった就業場所や業務の明示(内定時に包括的に示した場合)
入社の直前初日の集合場所・時間・持ち物、最初の週の予定、初日に対応する担当者
入社日受け入れ。入社後の定着の取り組みにつなげる

連絡の目的は、応募者が「この会社に入ったら何をするのか」を具体的に思い描けるようにすることです。職場の見学や、配属先の担当者と話す機会を設けるのも一つの方法です。

新卒を採るとき

新卒(学校卒業見込者等)を募集する場合、若者雇用促進法第13条により、募集を行う者は、青少年の募集・採用の状況、職業能力の開発・向上や職場への定着の取組の状況など「青少年雇用情報」を提供するよう努めなければならず、応募者や応募しようとする人から求められた場合は提供しなければなりません。内定者から職場の情報を求められたときも、この考え方で具体的に答えます。

辞退されたとき・取り消すときのルール

内定者から辞退されたとき

厚生労働省のスタートアップ労働条件のQ&Aは、次のように説明しています。

  • 内定で労働契約が成立していると認められる場合、内定者からの一方的な破棄は契約違反になりかねず、事由によっては損害賠償責任が課される場合がある
  • ただし、労働者の意思に反して労働契約の履行を義務づけることはできないため、損害賠償責任に止まる
  • 内々定の辞退は、職業選択の自由(憲法第22条第1項)もあるため、原則として違法になることは考えにくい

辞退の連絡を受けたら、無理に引き止めるよりも、辞退の理由を聞いて記録し、次の採用に生かすほうが実務的です。条件、選考の日数、連絡の間隔など、自社で直せる理由がないかを確かめます。

会社から内定を取り消すとき

内定で労働契約が成立している場合、内定の取消は解雇にあたり、労働契約法第16条(客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効)が適用されます。

最高裁の大日本印刷事件判決(昭和54年7月20日)は、取消が有効なのは、原則として次の両方を満たす場合に限られるとしています。

  1. 取消事由が、内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であること
  2. その事実を理由に取り消すことが、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できること

Q&Aは、具体的な事由として、契約の前提となる条件や資格の要件を満たさないとき、健康状態の悪化、重要な経歴詐称、重要な必要書類を提出しないことなどを挙げています。経営状況の悪化による取消は、整理解雇に準じて、人員整理の必要性、解雇回避の努力、対象者の選定の合理性、手続の妥当性の4つの要素を踏まえて判断されるとしています。

内々定の取消は解雇ではないとも考えられますが、拘束の度合いが強ければ内定と認められることや、期待権の侵害として損害賠償責任が認められることもありうるとされています。

新卒の内定を取り消すときの通知

職業安定法施行規則第35条第2項により、新規学卒者を雇い入れようとする者は、次のいずれかにあたるとき、あらかじめハローワークと学校の長などに、所定の様式で通知することとされています。

  • 新規学卒者の募集を中止する、または募集人員を減らすとき
  • 内定期間中に内定を取り消す、または撤回するとき
  • 内定期間を延長しようとするとき

ハローワークはこの通知を受けて指導を行い、内定取消が一定の場合にあたるときは、その内容を公表できるとされています(職業安定法施行規則第17条の4、平成21年厚生労働省告示第5号)。Q&Aが挙げる一定の場合は、2年度以上連続して行われたもの、同一年度内に10名以上に対して行われたもの(対象者の雇用を速やかに確保した場合を除く)、事業活動の縮小を余儀なくされているとは明らかに認められないときに行われたもの、取消の理由を十分に説明しなかったとき、就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき、です。

チェックリスト

  • 面接から合否の連絡までの日数を決め、面接の場で伝えている
  • 内定と同時に、労働条件通知書を書面で渡している
  • 内定時に就業場所や業務を特定できない場合、想定される内容を包括的に示し、改めて明示する時期も伝えている
  • 募集時の条件から変える点がある場合、変更の明示をしている
  • 入社日までの予定表(書類・手続き・連絡の時期)を渡している
  • 問い合わせ先を一本化している
  • 入社前の連絡を、決めた時期に行っている
  • 提出書類に、業務に関係のない書類が含まれていない
  • 辞退の理由を記録し、次の採用に生かしている
  • 内定の取消事由を内定通知に書き、取消の制限を理解している
  • 新卒の内定取消・内定期間の延長・募集の中止のときの通知の手続きを知っている

まとめ

  • 内定は、多くの場合、入社日を始期とする解約権留保付きの労働契約の成立と考えられている
  • 辞退を減らす基本は、早く決める、条件を書面で示す、連絡の予定を決めて守る、の3つ
  • 内定で労働契約が成立する場合、内定時に労働条件の明示が必要。特定できない事項は包括的に示し、決まり次第改めて書面で示す
  • 内定者の辞退は、損害賠償の問題になる場合はあっても、入社を強制することはできない
  • 会社からの内定取消は解雇にあたり、厳しく制限される。新卒の取消はハローワークと学校への通知が必要

参考資料