早期離職を防ぐには、「辞める理由」の上位にある労働時間・休日の条件と人間関係に、採用の段階から入社後90日までの間に手を打つことが基本です。公的な統計では、若い人が最初の会社を辞めた理由は、労働時間・休日・休暇の条件と人間関係が上位を占めています。そして、事業所の規模が小さいほど、就職後3年以内に辞める人の割合は高くなっています。
入社後の受け入れは、「現場に任せる」だけでは担当者によってばらつきます。この記事では、統計で辞める理由を確かめたうえで、採用の段階でできること、入社時に法律で必要なこと、入社90日の受け入れ計画のひな形を整理します。
統計で見る早期離職
規模が小さいほど離職率は高い
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は、中学卒54.1%、高校卒37.9%、短大等卒44.5%、大学卒33.8%でした。事業所の規模別では、次のとおりです。
| 事業所の規模 | 高校卒 | 大学卒 |
|---|---|---|
| 5人未満 | 63.2% | 57.5% |
| 5〜29人 | 54.6% | 52.0% |
| 30〜99人 | 45.2% | 41.9% |
| 100〜499人 | 36.7% | 33.9% |
| 500〜999人 | 29.9% | 31.5% |
| 1,000人以上 | 26.3% | 27.0% |
産業別では、宿泊業・飲食サービス業が高校卒64.7%、大学卒55.4%と最も高く、医療・福祉は高校卒49.2%、大学卒40.8%でした。
辞める理由の上位は「労働時間・休日」と「人間関係」
厚生労働省の令和5年「若年者雇用実態調査」(事業所約17,000か所と若年労働者約23,000人が対象)では、在学していない若年労働者のうち、初めて勤めた会社で現在は働いていない人が42.7%でした。初めての会社を辞めた理由(3つまでの複数回答)は、次の順です。
| 順位 | 理由 | 割合 |
|---|---|---|
| 1 | 労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった | 28.5% |
| 2 | 人間関係がよくなかった | 26.4% |
同じ調査で、今後「転職したいと思っている」若年正社員は31.2%で、転職しようと思う理由(複数回答)は「賃金の条件がよい会社にかわりたい」59.9%、「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」50.0%の順でした。
年齢を問わない統計では、令和7(2025)年「雇用動向調査」で、転職入職者が前の仕事を辞めた理由は、女性では「その他の個人的理由」を除くと「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」12.9%が最も多く、次いで「職場の人間関係が好ましくなかった」11.5%でした。男性では「その他の個人的理由」「その他の理由(出向等を含む)」を除くと「定年・契約期間の満了」16.1%が最も多く、次いで「給料等収入が少なかった」9.9%でした。
事業所の取り組み
若年者雇用実態調査では、若年正社員の定着のための対策を行っている事業所は73.7%でした。対策の中では「労働時間の短縮・有給休暇の積極的な取得奨励」を行っている事業所が52.9%と、前回(平成30年)の37.8%から上がっています。
採用の段階で防ぐ
早期離職の原因の一部は、入社前に生まれています。求人票や面接で聞いた話と、入社後の実際が違うと、それだけで辞める理由になります。
| 採用の段階 | すること | 関連する記事 |
|---|---|---|
| 求人票 | 仕事の中身、労働時間・休日、残業の実態、賃金の平均的な実態を書く | 求人票の書き方 |
| 労働条件の明示 | 変更の範囲、試用期間中の条件を含めて書面で示す | 募集時の労働条件の明示 |
| 面接 | 残業・休日出勤・配置などの条件を示し、対応できるかを確かめる | 面接の質問の作り方 |
| 内定から入社まで | 条件を書面で渡し、入社日までの予定を伝える | 内定辞退を減らす |
ハローワークは、求人票に勤続年数の長い社員の給与や、過度な残業を前提にした総支給額を書くと、実際の賃金が採用した人の期待を下回り、早期退職につながりかねないとしています。
労働基準法第15条第2項は、明示された労働条件が事実と違う場合、労働者は即時に労働契約を解除できると定めています。就業のために住居を変えた労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合は、使用者が必要な旅費を負担します(同条第3項)。
入社時に法律で必要なこと
入社時の受け入れには、法律で決まっていることがあります。受け入れ計画の最初に組み込みます。
| 必要なこと | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 労働条件の明示 | 労働基準法第15条、同法施行規則第5条 | 労働契約を結ぶときに、書面で明示が必要な事項を書面などで示す |
| 雇入れ時の安全衛生教育 | 労働安全衛生法第59条第1項、労働安全衛生規則第35条 | 雇い入れたとき、遅滞なく、従事する業務に関する安全衛生の教育を行う |
| 雇入時の健康診断 | 労働安全衛生規則第43条 | 常時使用する労働者を雇い入れるとき、医師による健康診断を行う(3か月以内に受けた健診の結果を出した場合は、相当する項目を省ける) |
労働安全衛生規則第35条が挙げる教育の事項は、次の8つのうち、その人の業務に関する安全衛生に必要なものです。
- 機械・原材料などの危険性・有害性と取扱い方法
- 安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能と取扱い方法
- 作業手順
- 作業開始時の点検
- その業務で起こるおそれのある疾病の原因と予防
- 整理、整頓と清潔の保持
- 事故時などの応急措置と退避
- その他、業務に関する安全衛生に必要な事項
事務職でも、作業手順や事故時の対応など業務に関係する事項は教育の対象になります。十分な知識と技能があると認められる人については、その事項の教育を省略できます(同条第2項)。
試用期間の扱い
労働基準法第21条により、試用期間中の人には解雇予告(第20条)の規定が適用されませんが、14日を超えて引き続き使用された場合は適用されます。試用期間だからといって自由に辞めてもらえるわけではなく、受け入れの間は育てる期間として計画します。
入社90日の受け入れ計画
ハローワークの「応募したくなる求人へ!」は、未経験者を募集する場合の書き方として、入社後の研修や「1年間は先輩と一緒に業務」のように、仕事の覚え方を具体的に示すことを挙げています。求人票に書いた受け入れの内容を、そのとおりに実行する計画を作ります。
| 時期 | すること | 担当 |
|---|---|---|
| 入社前 | 初日の予定・集合場所・持ち物を連絡。教える担当者(相談役)を決める。席・道具・アカウントを用意する | 採用担当・配属先 |
| 1日目 | 労働条件の確認、就業規則の説明、安全衛生教育、職場の案内、担当者の紹介 | 採用担当・配属先 |
| 1週目 | 仕事の全体像と1日の流れを見せる。最初に任せる仕事を決める。毎日短く振り返る | 相談役 |
| 1か月目 | 決めた範囲の仕事を一人でできるようにする。1か月の面談(困りごと、労働時間・休日の実際、人間関係) | 相談役・上司 |
| 2か月目 | 任せる範囲を広げる。できるようになったことを本人と確認する | 上司 |
| 3か月目(90日) | 振り返りの面談。本採用の判断(試用期間がある場合)。次の3か月の目標 | 上司・経営者 |
面談で聞くこと
辞める理由の上位が労働時間・休日の条件と人間関係であることから、面談ではこの2つを必ず聞きます。
- 労働時間・休日は、求人票や面接で聞いた話と比べてどうか
- 残業や休日出勤は、どれくらい発生しているか
- 仕事で困ったとき、誰に相談しているか。相談しやすいか
- 仕事の量と、教わる機会は足りているか
- 求人票や面接で聞いた話と違うと感じたことはあるか
面談の記録は残し、求人票と違う点が出てきたら、次の募集の求人票を直します。条件の食い違いが続くと、同じ理由で早期離職がくり返されます。
相談役を決める
入社した人がまず困るのは、「誰に聞けばよいかわからない」ことです。配属先で、日々の小さな質問に答える相談役を1人決めます。相談役の仕事は教えることだけでなく、困りごとを上司に伝えることです。相談役にも、そのための時間を業務として確保します。
労働時間・休日の見直し
若年者雇用実態調査で辞めた理由の1位が労働時間・休日・休暇の条件だったことから、定着のためには職場の労働時間そのものを見直すことも欠かせません。
- 新しく入った人の残業時間と休日出勤の状況を、最初の3か月は毎月確かめる
- 有給休暇を取りやすい段取り(代わりの人、取得の計画)を作る
- 求人票に書いた残業の目安と、実際の残業時間がずれていないか確かめる
チェックリスト
- 自社で辞めた人の理由と、入社から辞めるまでの期間を記録している
- 求人票の労働時間・休日・残業・賃金の記載が実態と合っている
- 面接で、残業・休日出勤・配置などの条件を示して確かめている
- 内定時に労働条件を書面で渡している
- 入社初日に、労働条件の確認と安全衛生教育を行っている
- 雇入時の健康診断を行っている
- 相談役を決め、その時間を業務として確保している
- 1週目・1か月目・90日目に面談の予定を入れている
- 面談で、労働時間・休日の実際と人間関係を必ず聞いている
- 面談で出た求人票との違いを、次の募集に反映している
まとめ
- 事業所の規模が小さいほど、新卒の3年以内離職率は高い
- 若い人が最初の会社を辞めた理由は、労働時間・休日・休暇の条件と人間関係が上位
- 早期離職の一部は、求人票・面接と実際の食い違いから生まれる。採用の段階から防ぐ
- 入社時には、労働条件の明示、安全衛生教育、雇入時の健康診断が法律で必要
- 入社90日の受け入れ計画を作り、相談役と定期的な面談で困りごとを早くつかむ