採用計画は、「何人」「いつまでに」「どんな人を」の3つを、事業計画から逆算して決めるものです。欠員が出てから募集を始めると、入社までの空白期間が必ず生まれ、条件を下げて急いで採る判断にもなりがちです。先に棚卸しと逆算をしておけば、募集の開始日も、求人票に書く中身も、使う経路も前もって決められます。
この記事では、中小企業が1年分の採用計画を立てる手順を、次の7つのステップで整理します。
| ステップ | 決めること |
|---|---|
| 1 人員の棚卸し | いま誰が、どこで、どの条件で働いているか |
| 2 必要人数の算定 | 増やす人数と、抜ける人数の見込み |
| 3 法律で決まった数の確認 | 定年・継続雇用、障害者の法定雇用率 |
| 4 採用時期の逆算 | 入社日から見た募集の開始日 |
| 5 求める人物像 | 仕事の中身と、必須・歓迎の条件 |
| 6 労働市場の確認 | 地域・職種の求人倍率と求職者の数 |
| 7 経路と予算 | どこで募集し、いくら使うか |
ステップ1 人員の棚卸し
最初に、部署・職種ごとに今の人員を一覧にします。見るのは人数だけではありません。
| 項目 | 見る理由 |
|---|---|
| 職種・部署 | 採用は職種ごとに行うため |
| 雇用形態(正社員・有期・パート) | ハローワークの求人もフルタイム・パート別に分ける |
| 有期契約の満了日と更新の上限 | 更新しない人、上限に達する人が抜ける |
| 年齢と定年の年 | 定年・継続雇用の終了で抜ける時期がわかる |
| 保有資格 | 資格が必要な業務で、資格者が足りなくならないか |
| 休業の予定 | 育児休業・介護休業などで一時的に欠ける人 |
定年と継続雇用を確かめる
高年齢者雇用安定法第8条は、定年を定める場合は60歳を下回ることができないとし、第9条は、65歳未満の定年を定めている事業主に、65歳までの雇用を確保する措置(定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止のいずれか)を義務づけています。さらに第10条の2は、65歳から70歳までの就業機会を確保する措置を講じるよう努めることを定めています。
棚卸しでは、「定年の年」と「継続雇用が終わる年」の両方を書いておくと、ベテランがいつ抜けるかが見えます。技能の引き継ぎに時間がかかる職種ほど、早めに後任の採用を計画に入れます。
ステップ2 必要人数の算定
必要人数は、次の式で出します。
採用人数 =(事業計画上の必要人数 − 現在の人数)+ 計画期間中の退職の見込み
| 要素 | 出し方 |
|---|---|
| 事業計画上の必要人数 | 売上・受注・利用者数などの計画から、職種ごとに必要な人数を出す。人員配置の基準がある業種はその基準を下回らない数 |
| 現在の人数 | ステップ1の一覧から |
| 退職の見込み | 定年・契約満了で確実に抜ける人+自己都合退職の見込み |
退職の見込みは自社の実績で出す
自己都合の退職は予測が難しいため、自社の過去3〜5年の離職の実績(年ごとの退職者数 ÷ 年初の人数)から見込みを立てます。
公的な統計を目安として見る場合、厚生労働省の令和7(2025)年「雇用動向調査」では、全産業の離職率は13.7%、入職率は14.7%でした。就業形態別では、一般労働者の離職率が11.4%、パートタイム労働者が19.9%です。産業別の一般労働者では、宿泊業・飲食サービス業の離職率が21.5%と高くなっています。自社の実績がこれらと大きく違う場合は、その理由(職種の構成、定着の状況)を確かめる手がかりになります。
採用人数と「応募が必要な数」は違う
採用人数が決まったら、それを採るために必要な応募の数も見積もります。応募から内定、内定から入社までにそれぞれ人が減るため、過去の自社の実績(応募数・面接数・内定数・入社数)から、各段階の通過の割合を出しておきます。実績がない場合は、最初の募集で記録を取り始めます。
ステップ3 法律で決まった数の確認
障害者の法定雇用率
障害者雇用促進法により、事業主は一定の割合以上の障害者を雇用する義務があります。厚生労働省のリーフレット「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」によると、民間企業の法定雇用率は次のとおり段階的に引き上げられています。
| 時期 | 法定雇用率 | 対象になる事業主の範囲 |
|---|---|---|
| 令和5年度 | 2.3% | 43.5人以上 |
| 令和6年4月 | 2.5% | 40.0人以上 |
| 令和8年7月 | 2.7% | 37.5人以上 |
対象の事業主は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告し、障害者雇用推進者の選任に努めることとされています。令和8年7月の引上げで新たに対象になった事業主や、不足が出る事業主は、採用計画に障害者の採用を入れておく必要があります。
人員配置の基準がある業種
介護・保育・医療など、法令や指定基準で人員の配置や資格者の数が決まっている業種では、その基準を下回らない人数が「最低限の必要人数」になります。退職の見込みを入れずに計画すると、1人の退職で基準を割るおそれがあります。基準の中身は業種ごとの法令で確かめます。
ステップ4 採用時期の逆算
入社してほしい日から、次の順で逆算します。
| 逆算の段階 | 内容 |
|---|---|
| 入社日 | 事業計画上、その人が必要になる日。教育期間があるなら、その分さらに前 |
| 内定・労働条件の明示 | 入社までの退職手続き(在職者なら退職の申し出と引き継ぎ)の期間を見込む |
| 選考 | 書類選考、面接の回数、社内の決裁にかかる日数 |
| 募集 | 求人を出してから応募が集まるまでの期間 |
| 準備 | 求める人物像、求人票、労働条件の確定 |
ハローワークと新卒の日程
ハローワークの求人は、原則として受理した月の翌々月末まで有効です(例: 4月1日受理なら6月30日まで)。大卒等の求人は、4月1日からその年度に卒業予定の人に公開され、5月31日以前には応募受付や選考を行わず、6月1日以降に選考を始めるよう案内されています(ハローワークインターネットサービス「求人申込み手続きの流れ」)。新卒を採る場合は、この日程が計画の起点になります。
ステップ5 求める人物像を言葉にする
人物像は「明るい人」「やる気のある人」のような印象ではなく、仕事の中身から書き起こします。
- 仕事を書き出す: その職種で1日・1週・1か月に行う業務を具体的に書く
- 必要な力に分ける: それぞれの業務に必要な知識・技能・資格・経験を書く
- 必須と歓迎に分ける: 入社時点で必ず要るものと、入社後に身につければよいものを分ける
- 確かめ方を決める: 書類、面接の質問、実技のどれで確かめるかを決める
労働施策総合推進法施行規則第1条の3第2項は、募集・採用に当たって、職務の内容や、必要な適性・能力・経験・技能の程度をできる限り明示するよう求めています。年齢や性別で人物像を描くことは、法律で認められた例外を除いてできません。求人票への書き方は求人票の書き方、選考で聞いてはいけないことは公正な採用選考とはで整理しています。
ステップ6 労働市場を確かめる
同じ条件でも、地域と職種によって集まりやすさは大きく違います。計画を立てる前に、公的な統計で市場の状況を確かめます。
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」によると、有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍、新規求人倍率は2.10倍、正社員の有効求人倍率は1.00倍でした。都道府県別(就業地別)では、最高が福井県と山梨県の1.69倍、最低が大阪府の0.95倍です。求人倍率が1を超えていれば、求職者1人に対して求人が1件以上ある状態です。
これは全体の数字なので、自社の職種・地域については、ハローワークが提供する「バランスシート」(職種別の求人数・求職者数を並べたデータ)で確かめられます(ハローワークインターネットサービス「初めてご利用になる求人者の方へ」)。求職者に比べて求人が多い職種ほど、募集期間を長めに取り、条件や求人票の中身を見直す余地を計画に入れておきます。
ステップ7 経路と予算を決める
経路ごとに、費用のかかり方と向いている場面が違います。
| 経路 | 費用のかかり方 | 計画での使い方 |
|---|---|---|
| ハローワーク | 無料(職業安定法第8条) | すべての募集の土台として出しておく |
| 求人サイト・求人広告 | 掲載料など(事業者ごとに料金体系が違う) | 応募の数を増やしたい職種に |
| 有料職業紹介 | 採用が決まったときの手数料(届け出た手数料表などによる) | 急ぎの職種、専門職に |
| 学校・養成施設 | 求人票の送付など | 新卒・資格職の定期採用に |
| 自社の採用サイト・紹介 | 制作・運用の手間 | 長く続けるほど効く経路として |
予算は「採用人数 × 1人あたりにかけられる費用」で上限を決め、経路ごとに配分します。1年が終わったら、経路ごとの応募数・入社数・費用を集計し、翌年の配分を見直します。
採用計画表のひな形
1年分の計画は、次のような表にまとめると、社内で共有しやすくなります。
| 職種 | 雇用形態 | 採用人数 | うち増員 | うち欠員補充 | 入社希望日 | 募集開始日 | 必須条件 | 歓迎条件 | 経路 | 予算 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (記入) |
四半期ごとに、実際の退職と採用の状況で表を更新し、ずれた分を次の四半期の計画に反映します。
チェックリスト
- 部署・職種ごとに、人数・雇用形態・契約満了日・定年の年を一覧にした
- 定年と継続雇用の制度を確かめ、ベテランが抜ける年を把握した
- 事業計画から、職種ごとの必要人数を出した
- 自社の過去の離職の実績から、退職の見込みを出した
- 障害者の法定雇用率(令和8年7月から2.7%)の対象かどうか、不足がないかを確かめた
- 人員配置の基準がある業種では、基準を下回らない人数を計画に入れた
- 入社希望日から逆算して、募集開始日を決めた
- 求める人物像を、仕事の中身から必須・歓迎に分けて書いた
- 地域・職種の求人倍率やバランスシートを確かめた
- 経路と予算を決め、年度末に振り返る項目を決めた
まとめ
- 採用計画は「何人・いつまでに・どんな人を」を事業計画から逆算して決める
- 人数は「必要人数 − 現在の人数 + 退職の見込み」で出し、退職の見込みは自社の実績から立てる
- 定年・継続雇用と障害者の法定雇用率は、法律で決まった数として計画に入れる
- 募集の開始日は入社日から逆算し、ハローワークの有効期限や新卒の日程を起点にする
- 人物像は仕事の中身から書き起こし、年齢・性別では描かない