固定残業代(「みなし残業代」「定額残業代」とも呼ばれます)を含めて賃金を表示する求人では、3 つの事項を必ず示すことが、職業安定法にもとづく指針で決まっています。厚生労働省のリーフレットによると、ハローワークに寄せられた「求人票の記載内容と実際の労働条件が違う」という申出や苦情(平成 27 年度)で最も多かったのも、固定残業代を含む賃金に関することでした。
この記事では、示す 3 つの事項と厚生労働省の記載例、避けたい書き方、求人を出す前の点検の仕方を整理します。
固定残業代とは
固定残業代は、名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働・休日労働・深夜労働に対して定額で支払う割増賃金のことです。基本給の中に組み込む形と、基本給とは別の手当として払う形があります。
「営業手当」「業務手当」など、残業とは関係のなさそうな名前の手当でも、一定時間分の割増賃金として払っているなら固定残業代にあたります。
示す 3 つの事項
固定残業代の仕組みを採用する場合は、求人票や募集要項などに、次の 3 つをすべて示します。
| 示すこと | |
|---|---|
| ① | 固定残業代を除いた基本給の額 |
| ② | 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法 |
| ③ | 固定残業時間を超える時間外労働・休日労働・深夜労働に対して、割増賃金を追加で支払う旨 |
根拠は、職業安定法第 5 条の 3 と同法施行規則第 4 条の 2、そして「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者…が適切に対処するための指針」(平成 11 年労働省告示第 141 号)です。若者雇用促進法にもとづく指針にも、若者が応募する可能性のある求人について同じ内容が定められています。
厚生労働省の記載例
厚生労働省・都道府県労働局・ハローワークのリーフレットでは、時間外労働について固定残業代を採用している場合の書き方を、次のように示しています。
① 基本給(××円)(②の手当を除く額) ② □□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給) ③ ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
あわせて、次の注意点が挙がっています。
- 「□□」には、固定残業代にあたる手当の名前を書く
- 「□□手当」に固定残業代以外のものを含む場合は、固定残業代の分を分けて書く
- 深夜労働や休日労働について固定残業代を採用する場合も、同じように書く
避けたい書き方
次のような表示は、3 つの事項がそろっていないか、読み手が実際より良い条件だと受け取るおそれがあります。
| 書き方 | どこが足りないか |
|---|---|
| 月給 25 万円(固定残業代含む) | 固定残業の時間数・金額と、除いた基本給の額が分からない |
| 月給 25 万円(みなし残業 30 時間含む) | 固定残業代の金額と、除いた基本給の額が分からない |
| 基本給 25 万円 ※残業代は基本給に含む | 基本給のどこまでが割増賃金か判別できない |
| 営業手当 5 万円(固定残業代として支給) | 何時間分の割増賃金なのかが分からない |
| 固定残業代 5 万円(30 時間分) | 超えた分を追加で払うことが書かれていない |
厚生労働省の「令和 4 年 改正職業安定法 Q&A」でも、固定残業代の基礎になる時間数を示さず、基本給に含めて表示することは、誤解を生じさせる表示の例に挙がっています。求人の的確表示の義務(職業安定法第 5 条の 4)にも関わるので、「求人の的確表示」の記事もあわせて確かめてください。
求人の中身と、実際の払い方をそろえる
求人の表示は、就業規則や労働条件通知書、実際の給与の払い方と同じでなければなりません。表示を整えるときは、次の 3 点を社内の書類と突き合わせます。
1. 基本給と固定残業代が分かれているか
厚生労働省は、固定残業代を払う場合、通常の労働時間の賃金にあたる部分と、割増賃金にあたる部分を判別できるようにしておく必要があるとしています。求人に書いた内訳が、就業規則や労働条件通知書にも同じ形で書かれているかを確かめます。
最高裁の判例でも、基本給の中で通常の賃金と割増賃金の部分を判別できない場合、固定の額を払っていても割増賃金を払ったことにはならないとされたものがあります(厚生労働省のリーフレットで紹介されている平成 24 年 3 月 8 日 最高裁第一小法廷判決)。
2. 固定残業代の額が、時間数に見合っているか
固定残業代の額は、示した時間数分の割増賃金として足りている必要があります。厚生労働省は、固定残業代の額が労働基準法第 37 条などの方法で計算した割増賃金の額を下回るときは、その差額を払う必要があるとしています。
基本給を上げ下げしたときや、所定労働時間を変えたときは、1 時間あたりの賃金が変わるので、固定残業代の額が時間数に見合っているかを計算し直します。
3. 超えた分を実際に払っているか
示した時間を超えた時間外・休日・深夜の労働には、割増賃金を追加で払います。求人に「追加で支給」と書いていても、勤怠の記録と給与の計算がそうなっていなければ、表示と実際が食い違います。
あわせて確かめること
最低賃金
最低賃金と比べる賃金には、時間外・休日・深夜の割増賃金は含みません。固定残業代を除いた基本給などを 1 時間あたりに直した額が、就業場所の都道府県の最低賃金を下回っていないかを確かめます。最低賃金は毎年改定されるので、改定の時期にも見直します。
時間外労働の上限
時間外労働をさせるには、36 協定を結んで労働基準監督署に届け出る必要があり、時間外労働の上限は原則として月 45 時間・年 360 時間です(労働基準法第 36 条)。固定残業の時間数を決めるときは、36 協定の範囲と、この原則の上限を踏まえます。
求人を出す前の点検表
固定残業代のある求人を出す前に、次の項目を確かめます。
- 固定残業代を除いた基本給の額を書いている
- 固定残業代の時間数と金額の両方を書いている
- 時間外・休日・深夜のどれに対する固定残業代かが分かる
- 固定残業の時間を超えた分を追加で払うと書いている
- 手当の名前が固定残業代以外のものを含むなら、固定残業代の分を分けて書いている
- 求人票・採用ページ・求人媒体・SNS で、書き方と金額がそろっている
- 就業規則・労働条件通知書の内訳と、求人の内訳が同じ
- 固定残業代の額が、時間数分の割増賃金に足りている
- 固定残業代を除いた賃金が最低賃金を下回っていない
求人を複数の場所に出している場合は、どこか 1 か所だけ古い書き方が残りやすいので、掲載している場所の一覧と突き合わせて直します。
制度そのものの設計や、自社の固定残業代が有効かどうかの判断は、労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家に確かめてください。
まとめ
- 固定残業代は、名称にかかわらず、一定時間分の時間外・休日・深夜の労働に定額で払う割増賃金
- 求人には、①固定残業代を除いた基本給の額、②固定残業の時間数と金額、③超えた分を追加で払う旨、の 3 つを必ず示す
- 「固定残業代含む」「みなし残業 30 時間含む」だけの表示は、3 つの事項がそろわない
- 求人の内訳は、就業規則・労働条件通知書・実際の給与の計算と同じにする
- 最低賃金と時間外労働の上限もあわせて確かめる