給与欄は求人票の中でも特によく見られる項目である一方、表記の仕方によっては「思っていた金額と違う」という食い違いを生みやすい項目でもあります。この記事では、法律上の明示義務と、誤解を生まない書き方を整理します。
1. 賃金額の明示は義務、最低賃金額を下回れない
職業安定法は、求人者に賃金その他の労働条件の明示を義務付けています(職業安定法第5条の3第1項・第2項)。明示すべき賃金の範囲は、職業安定法施行規則第4条の2第3項第5号により、臨時に支払われる賃金・賞与を除いた賃金の額とされています。
また、最低賃金法第4条第1項は、使用者に最低賃金額以上の賃金の支払いを義務付けており、最低賃金額に達しない賃金を定める労働契約は、その部分が無効となり、最低賃金額の定めをしたものとみなされます(同条第2項)。求人票に記載する金額(時給換算した場合を含む)が、事業所が所在する都道府県の最低賃金額を下回っていないかを確認します。
2. 月給・日給・時給の書き方
雇用形態や働き方に応じて、月給・日給・時給のどれで示すかを明確にします。
| 形態 | 書き方のポイント |
|---|---|
| 月給 | 基本給と、諸手当・固定残業代など基本給以外の部分を分けて書く。「月給〇万円〜」のように幅を持たせる場合は、決まり方(経験・能力による)を書く |
| 日給 | 1日あたりの金額と、想定される勤務日数・月収の目安を示すと、応募者が月収をイメージしやすくなる |
| 時給 | 時給額に加え、想定される週の勤務時間・シフトの目安を示す |
「月給〇万円〜◯万円」のように幅のある表記をする場合、その差がどのような条件(経験、資格、役職など)で生じるのかを書かないと、実際に提示される金額との食い違いにつながりやすくなります。
3. 基本給と手当を分けて書く
基本給に、固定残業代・資格手当・役職手当などを含めた合計額だけを「給与」として大きく表示すると、応募者が基本給を実態より高く誤認することがあります。
- 基本給:手当を含まない基本の金額
- 固定残業代を含む場合:固定残業代に当たる金額、その残業時間数、超過分の別途支給の有無の3つを示す必要があります(詳細は固定残業代の求人の書き方|示す3つの事項)
- 資格手当・役職手当など:支給条件と金額を分けて書く
4. 賞与・昇給、試用期間中の賃金
- 賞与:有無を明記し、決め方(業績連動、査定によるなど)や、支給実績(回数・時期)が分かれば書く
- 昇給:有無を明記し、頻度(年1回など)や、決め方(査定によるなど)が分かれば書く
- 試用期間中の賃金:本採用後と異なる金額を設定する場合は、試用期間の金額と期間を明記する。本採用時との差額や、差が生じる理由も分かると、応募者の不安を減らせます
賞与・昇給は、明示すべき賃金額そのものには含まれませんが、応募者の判断材料として重要な情報のため、実態にもとづいて具体的に書くことを勧めます。
5. 表記を変更するタイミングでの注意点
昇給・賞与の実績が変わった、最低賃金が改定された、募集職種の相場が変わったなど、給与欄の表記を見直す場面は定期的に発生します。表記を変更する際は、次の点に注意します。
- 掲載中の求人すべてに反映する:複数の求人媒体・自社サイトに同じ内容を掲載している場合、一部だけ更新すると、媒体間で表記が食い違います
- すでに選考中の応募者への影響を確認する:表記を変更した理由が、これから採用する人だけでなく、選考中の応募者にどう伝わるかも考慮します
- 最低賃金の改定時期を把握しておく:地域別最低賃金は例年10月頃に改定されることが多く、時給制の求人は改定前に確認・更新が必要です
給与欄は一度作って終わりではなく、社内の賃金改定や法令の変更にあわせて、定期的に見直す項目として管理することが望まれます。
6. 落とし穴
- 手当を含めた合計額だけを大きく表示する:基本給が実態より高く見える表記は、誤解を生じさせる表示(職業安定法第5条の4)に当たるおそれがあります
- 試用期間中の賃金差を明記しない:入社後に「聞いていた金額と違う」という食い違いの原因になります
- 最低賃金額を確認せずに時給を設定する:地域・産業によって最低賃金額は異なり、改定されるたびに見直しが必要です
- 「月給〇万円〜」の幅の理由を書かない:どのような条件で金額が変わるかが分からないと、応募者は自分に当てはまる金額を判断できません
7. まとめ
- 賃金額(臨時の賃金・賞与を除く)の明示は義務(職業安定法施行規則第4条の2第3項第5号)
- 最低賃金額を下回る賃金の定めは、その部分が無効になる(最低賃金法第4条)
- 基本給と手当(固定残業代を含む)を分けて書き、幅のある表記は条件を明記する
- 賞与・昇給・試用期間中の賃金差は、明示義務の対象外でも、実態にもとづいて具体的に書く
参考資料
- 職業安定法(昭和22年法律第141号)第5条の3・第5条の4(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000141
- 職業安定法施行規則(昭和22年労働省令第12号)第4条の2(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40002000012
- 最低賃金法(昭和34年法律第137号)第4条(e-Gov 法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137